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APFSDS(armor-piercing fin-stabilized discarding sabot)は、戦車砲などに使用される徹甲弾で、戦車などの装甲を貫くのに特化した砲弾である。日本語では装弾筒付翼安定徹甲弾(そうだんとうつきよくあんていてっこうだん)などと称される。開発当初はAPDS(装弾筒付徹甲弾)との対比としてAPDS-FSと呼ばれていた。この呼称も一部の国で使われている。
APFSDSは、従来の徹甲弾よりもより高い飛翔速度を持ち、それにより大きな侵徹力を有する砲弾である。1960年代に実用化された。APFSDSの発射時の初速は概して1,500m/s以上であり、第二次世界大戦以前に使用されていた徹甲弾と比較して高速で侵徹が生じる。このような高速度での衝突では、侵徹体先端は塑性変形を生じながら侵徹が生じ、これがAPFSDSの侵徹を特徴づける現象となっている。このような侵徹様式では、侵徹体の先端はマッシュルーム状に広がりながら装甲にめり込み侵入する。侵徹体は塑性変形によって先端から失われてゆくため急速にその長さを失って行き、装甲厚に対して十分な長さが無ければ穴だけが残され、長さがあれば残端が装甲内部に飛び込んで加害する。
このようなAPFSDSの侵徹を表現するモデルは1967年、1966年にTateおよびAlekseevskiiによって独立に提案された[1][2]。侵徹体が消耗する侵徹は、成形炸薬弾の侵徹様式を表現するモデルとして、Mott、Birkhoff、PackおよびEvansによって提案され、TateおよびAlekseevskiiによって装甲の強度および侵徹体の強度を考慮したモデルが提案された。これらのモデルは、侵徹体と装甲の振る舞いを流体力学的に取り扱うことで侵徹先端速度を求めることで、侵徹体の侵徹性能を簡潔に導出している。これらのモデルに基づけば、APFSDSの侵徹性能の上限は装甲の強度に強く依存する一方で侵徹体の強度にあまり依存しない。また、侵徹体長さあたりの侵徹深さは衝突速度に対して上に凸の依存性を示し、上限が存在する。その上限は侵徹体の密度と装甲の密度の比の平方根によって定まる。
APFSDSの侵徹を説明する際にしばしば「装甲が流体のように振る舞うことで強度を失う」という説明がなされることがあるが、これは誤りである[要出典]。
1995年、AndersonおよびWalkerは連続体力学的な取り扱いから同じくAPFSDSの侵徹モデルを提案し、従来の徹甲弾とAPFSDSを統一的に取り扱うモデルを提案している[3]。タングステン合金弾が鋼製装甲板に穿孔する場合では850m/sec以上、鋼製の侵徹体が鋼製装甲板に穿孔する場合では1,100m/sec以上の速度が無いと侵徹体の消耗を伴う侵徹は停止し、侵徹体が消耗しない侵徹様式に移行する。
侵徹は装甲に対してほぼ平行に着弾した場合を除き跳弾を起こすことは無く、滑らすという意味での避弾経始は殆ど機能しない[4]。APFSDSが装甲を貫通するためには、着弾時の速度、侵徹体の長さ、座屈しないための靱性、展性の高さの4つが必要である。着弾時の速度が低速であれば従来の徹甲弾より貫徹力が劣る。
APFSDS(装弾筒付翼安定徹甲弾)は、細長い棒状の侵徹体と風防、安定翼、軽金属の装弾筒、曳光筒で構成される。ライフル砲から発射する際にはスリッピング・バンドが加わる。
侵徹体の材質としてはタングステン合金が使用されることが多く、一部には劣化ウラン合金が使用されている。
装甲を貫く力は、均質圧延鋼装甲(RHA:Rolled Homogeneous Armor)を貫ける厚さで表現される。RHA自身は21世紀の現在では古い装甲技術であるが、各兵器メーカーが既に良く知り尽くした素材であるために貫徹力を単純に比較するには適している。120mm滑腔砲で使用されるAPFSDSは、500-1,000mm程度のRHAを貫くことが可能となっている。
APFSDSの侵徹性能は密度に強く依存するため、鋼製の侵徹体は同じ長さのタングステン合金、劣化ウラン製の侵徹体と比較して、1/2程度の貫徹力である。また、劣化ウラン製の侵徹体は、1,600m/s程度の速度域ではセルフシャープニング効果によってタングステン合金製侵徹体より10%ほど貫徹力に勝る[9]。一方、劣化ウランとタングステン合金の密度は同等であるため、より高速度域では両者の貫徹力は同等となる[9]。
侵徹の物理で述べたように、APFSDSのような侵徹体が消耗する侵徹では、侵徹深さは衝突速度に対して上限が存在する。そのため、APFSDSにおいては、運動エネルギーあたりの侵徹深さを最大化するという観点では、高速度化は必ずしも最適ではなく、最適な速度が存在する[10]。Odermattは、運動エネルギーおよびL/D比を一定とした時の侵徹深さの衝突速度依存性を計算した[10][注釈 1]。その結果に基づけば、現用弾では1,500m/sec前後で着弾するが、将来高速弾が実現してもタングステン弾芯の場合2,000m/s程度で穿孔の効率は最大となり、侵徹深さは徐々に小さくなってゆく。劣化ウランの場合は1,600m/s強で穿孔の効率が最大となり、それ以上の速度域ではタングステン同様侵徹深さは小さくなる[4][10]。
21世紀の現在、戦車が対戦車用として使用する砲弾はほとんどがAPFSDSである。同じ対戦車用の弾薬には成形炸薬弾(HEAT)があるが、対戦車用の砲弾として戦車砲に使用されることはあまりない。HEATは標準的な装甲板に対する侵徹力といった数値上はAPFSDSと同等の威力を示すが、現在の戦車に多く使われる複合装甲に対してはAPFSDSに比べて大きく劣るためである。
正式名 | 口径 [mm] |
L/D比 | 侵徹体材料 | 砲口初速 [m/秒] |
侵徹力 [mm] (RHA換算、距離2,000m、撃角0度) |
原開発国 | 就役年 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
BM-6 | 115 | 5 | 鋼鉄 | 1,615 | 236(U-5砲) | ロシア (ソビエト連邦) |
1961年 |
M735 | 105 | 10 | タングステン合金・鋼鉄 | 1,501 | 318(L7砲) | アメリカ合衆国 | 1970年代中盤 |
DM23 (M-111) |
105 | 10 | タングステン合金 | 1,455 | 342(L7砲) | イスラエル | 1978年 |
DM33 (M-413) |
105 | 20 | タングステン合金 | 1,465 | 413(L7砲; 推定) | ドイツ | 1987年(NATO) |
DM33 (M-413) |
120 | 20 | タングステン合金 | 1,650 | 460(L44砲) | ドイツ | |
M464 | 76 | 15 | タングステン合金 | 1,433 | 230(M32砲) | アメリカ合衆国 | 1980年代後半 |
3BM48 | 125 | 22 | 劣化ウラン | 1,700 | 600(2A46砲) | ロシア | 1991年 |
M829A2 | 120 | 18 | 劣化ウラン | 1,750 | 700(L44砲) | アメリカ合衆国 | 1993年 |
APFSDS-T Mk II | 40 | n/a | タングステン合金 | 1,500 | 135※1,000m(L70砲) | スイス | 2001年 |
DM53 | 120 | 30 | タングステン合金 | 1,650 | 650(L44砲) 810(L55砲) |
ドイツ | 2001年 |
M690A1 | 90 | n/a | タングステン合金 | 1,345 | 300以上 | ベルギー | 2002年 |
M1060A3 | 105 | 29 | タングステン合金 | 1,560 | 460(L7砲) | ベルギー | 2004年 |
3BM69 | 125 | n/a | 劣化ウラン | 2,050 | 1,000 (2A82砲) | ロシア | 2005年 |
1961年、ソビエト連邦軍で世界初の115mmのAPFSDS実用弾であるBM-3の運用が開始された。BM-3はタングステンカーバイド製の侵徹体を持つ4kgの飛翔体がT-62戦車では砲口初速:1,615m/secで発射された。1962年にはBM-6が登場した。BM-6は加工の容易な鋼鉄製となり砲口初速:1,615m/secでRHA換算で236mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていたが、有効射程は1,600mであった。
1970年代中頃、米国のM60戦車などの105mm砲用のM735というAPFSDS砲弾が登場した。M735はタングステン合金・鋼鉄製の侵徹体を含む3.7kgの飛翔体が砲口初速:1,501m/secで発射され、318mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。これはタングステン合金を鋼鉄の鞘で包んだものであった。 このときはまだライフリング付き砲身で使用されていた。滑腔砲は1977年9月に西ドイツのレオパルト2戦車で登場した120mm滑腔砲が西側で最初であった。
1978年9月に、米国はM735の侵徹体のタングステン合金を劣化ウラニウム合金に置き換えたM735A1という砲弾の生産を開始した。1979年4月には劣化ウラニウム合金を鋼鉄で包まずに、現代のAPFSDSと同様のモノブロック構造のM774の生産を開始し、M735シリーズを置き換えた。
イスラエルは1978年にM-111というAPFSDS弾を実用化した。M-111はタングステン合金製モノブロックの侵徹体を含む飛翔体が砲口初速:1,455m/secで発射され、342mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。レバノンでの戦闘でT-72を撃破して高い評価を得たM-111はNATOで選定試験を受け、西ドイツのディール社がライセンス生産することで、DM23 105mm APFSDS弾として販売された。
1977年にDM13が運用開始された。DM13はL/D比約12であった。 1987年頃にはDM33が運用開始された。これもイスラエルがM-111の後継として開発したM-413をNATOで採用した物で、L/D比約20で460mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。 2004年頃にDM53が運用開始された。DM53はL/D比約30で610mm(距離2,000m)の侵徹力を備えていた。
日本でもM735が導入され、1984年からは国内のダイキン工業でライセンス生産が行なわれた。1991年からは同社でラインメタル社製DM33 120mm弾のライセンス生産を行ない、JM33と命名して90式戦車の主砲弾とした。1994年からは同じくダイキンで105mm APFSDS弾の独自開発による量産が行なわれている。10式戦車用の120mm APFSDS弾の国内開発も行なわれ[4]、10式120mm装弾筒付翼安定徹甲弾として配備が進められている。この弾丸のL/D比は約30とDM53に匹敵する値を示している[1]。
弾薬名 | 素材 | 単価 | 購入数 | 購入国 | 製造国 | 製造企業 | 購入年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
120mmDM53 | タングステン合金 | 36万円 | 27,000 | 独 | 独 | ラインメタル | 2001 | |
120mmDM43(OFL120F1) | タングステン合金 | 43万円 | 5,000 | 仏 | 仏 | GIAT*1 | 2001 | *1:Rheinmetallと共同開発 |
120mmKWE-A1(120mmDM43相当) | タングステン合金 | 63万円 | 10,040 | エジプト | 米 | GDOTS | 2003 | |
120mmJM33 | タングステン合金 | 95万円 | ━ | 日 | 日 | ダイキン*2 | 1999 | *2:Rheinmetallからのライセンス |
120mmM829E3 | 劣化ウラン合金 | 57万円*3 | 25,400 | 米 | 米 | Aliant Techsystems | ━ | *3:目標価格 |
105mmAPDSFS とTPDS |
タングステン合金 | 54万円*4 | 7,600 | 豪 | 加 | SNC TEC | 2003 | *4:APDSFSと練習弾の平均価格 |
105mm93式 | タングステン合金 | 55万円 | ━ | 日 | 日 | ダイキン | 1999 | |
105mmM735 | タングステン合金 | 28万円 | ━ | 日 | 日 | ダイキン*5 | 1999 | *5:米国からのライセンス、旧式のダブルブロック構造 |
TPFSDSは、陸上自衛隊の日本国内での演習場では狭すぎてAPFSDSの実弾演習が行えないため開発された訓練弾である。
タングステン弾体と同じ飛翔特性を示すが、目標命中、若しくは一定距離を飛翔すると弾体が3分割(正確には5分割)し、急激に減速することで狭い演習場での実弾演習を可能としている。
孔口付近に出た液状金属に安定翼が衝突するために、被弾した装甲表面には穴の周囲に十字などのAPFSDS特有のマークが残る。
と書ける。ここでL/D比をとし、の関係を用いた。今、運動エネルギーとL/D比は一定としているため、侵徹体長さは衝突速度から
と定められる。上式から、運動エネルギー、L/D比一定の条件では侵徹体長さと衝突速度はトレードオフの関係にある。
侵徹の物理で述べたように侵徹深さはに比例し、に対して上に凸の関数であるため、衝突速度の増加と共に侵徹体長さ当たりの侵徹深さの増加は小さくなる一方で侵徹体長さが短くなる。そのため、KE一定の条件下ではある衝突速度で侵徹深さは最大値を示す。劣化ウラン弾では、セルフシャープニング効果によって低速度域での侵徹能力がタングステン合金に対して優位であるために、より低速度域で侵徹体長さ当たりの侵徹深さの増加が小さくなる。そのため、タングステン合金製侵徹体と比較して低速で侵徹深さが最大となる。