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モート (mt[1] [môtu]) は、ウガリット神話に登場する死と乾季の神。その名はセム語で「死」を意味する[1][2]。
最高神イルと女神アーシラトの息子[2]。豊穣神バアルの兄弟にして敵対者でもある[3]。
地下世界を統べるモートとの対決を決意したバアルは、自身が神々の王となった祝宴に招待する使者をモートに送った。だが、バアルの宮殿で行われた祝宴では自分が欲している人間の肉ではなく料理と葡萄酒が供されると知った彼は怒り、バアル自身が会いに来るよう要求した。バアルはモートに従う旨を伝え、モートの元に降りていく。その前にバアルは、太陽神シャプシュの助言を受け入れてひそかに牝牛との間に息子をもうけていた。モートは冥界に来たバアルを、身代わりと知らずに飲み込んで殺害する[4][5]。
モートの肉体は冥界そのものであり、その喉は冥府の門であり、全ての生き物はその口を逃れられない[6]。さらに神であるバアルでさえモートを永久に消滅させることはできず[7]、バアルがモートに飲み込まれている間は自然界への恵みの一切が絶たれるという[8]。
モートは、バアルを探し求めていたアナトから彼の身柄を返すよう求められると、バアルを飲み込んだことを話した。怒ったアナトはモートを殺害し、その体を切り刻み、すり潰し、燃やし、ふるいにかけて地に撒いた[9][10]。このアナトの行為は、農作業での習慣を反映したものだとも、破壊を意図した魔術的な行為だとも考えられている[3]。
その後バアルが復活したが、7年後にはモートも復活する。復活したモートは再びバアルと戦った[11][12]。このモートとバアルの戦いは雨季と乾季の入れ代わり、自然界や農業の周期を象徴したものとされる[2]。また、モートの復活が7年目とされるのは、畑地を7年ごとに休耕させて翌年の豊作を期待した儀式の反映だとも考えられている[13]。
争いのさなか、モートはバアルに、その兄弟を1人寄越さねば人類を食い尽くすと言って脅した[14]。バアルは「モートの子供たち」を送ったため、モートは再びバアルに挑んだ[3]。2人が争っているところに太陽神シャプシュが現れ、モートに争いをやめるよう訴えた。モートはこの取りなしを受け入れ、バアルが神々の王であることを認めた[15][16]。
モートに対する礼拝や祭儀についてはほとんど知られていない[3]。
ビブロスのフィロ(ビュブロスのフィロン)が1世紀に残した記録によれば、フェニキアで信仰されていた神ムトは、ローマ神話の冥界の神プルートーと同一視されていたという[3]。