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エレベーター(アメリカ英語: Elevator / イギリス英語: Lift)は、人や荷物を載せて垂直または斜め・水平に移動させる装置。日本語では昇降機(しょうこうき)ともいう。 人が乗れない小荷物専用のものは建築基準法では小荷物専用昇降機と記されている。近年まではダムウェーター(Dumbwaiter)と記載されていたが、dumb waiter(直訳:物の言えない給仕人)が差別用語とされたため読み替えられることが増えた[1]。なお小荷物専用昇降機最大手のクマリフトは2023年4月時点でもダムウェーターと呼んでいる。
一般的に多数のフロアを有するオフィスビルやホテル・デパートに設置されるほか、福祉施設など階段での移動が困難な人の利用が想定される施設にも設置されることがある。歩行が不自由な人がいる一戸建て住宅にも小型のホームエレベーターを取り付けることがある。
この機器の日本語での名称 (カタカナ表記)は、「エレベーター」と表記されたり「エレベータ」と表記されたり、表記が一貫していない。しかし、JISでは用語や記述記号についての定めに基づき[2]、「エレベータ」と表記する[注釈 1]。
一般には、外来語で英語の語尾が「-er」「-or」「-ar」の場合、長音符号で表記するので、「エレベーター」となる。しかし、JISでは、学術用語や別の規格がある場合以外は、その言葉が3音節以上であれば、長音符号を省くのが原則となっている。したがってJISでは「エレベータ」と表記する。これらは、どちらが正しくてどちらが誤りというわけではない。製造メーカーは、JISに従い「エレベータ」と表記することが多い。放送や新聞などの報道では「エレベーター」と表記される。
なお、業界団体名は「社団法人日本エレベータ協会」から、2012年に一般社団法人に移行したのを機に「一般社団法人 日本エレベーター協会」と改称、公式サイト内では社名などの固有名詞を除き「エレベーター」と表記している。東芝エレベータおよび日本オーチス・エレベータは社名を改称していないが、サイト内では「エレベーター」と表記している。
エレベーターは既に紀元前から存在し、古代ギリシアのアルキメデスがロープと滑車で操作するものを開発していた。ローマ時代に入ると、ローマ皇帝ネロは、宮殿内に設置した人力エレベーターを使用していたほか、コロッセオには剣闘士と戦う猛獣を闘技場のあるフロアまで運ぶ人力エレベーターが用意されていた[3]。
中世ヨーロッパでも、滑車を用いた巻上機があり、一部で利用されていた。17世紀に入ると、釣り合いおもり(カウンターウェイト)を用いたものが発明された。
今日でもこれ等に連なる舞台用の人力迫は現役で使われているが、電動が主流になっている。
19世紀初頭には、水圧を利用したエレベーターがヨーロッパに登場し、工場などで実際に使用された。また1835年に蒸気機関を動力として利用したものが現れた。動力式エレベータは最初にイングランドで導入され、1840年代にはアメリカの工場やホテルでも導入が広がった[4][出典無効]。ただし、水力や蒸気機関を用いたエレベーターは、非常に速度が低く、安全性にも問題があった。
これに解決の糸口を与えたのは、アメリカのエリシャ・オーチス (Elisha Graves Otis、1811-1861) である。彼は、1853年のニューヨーク万国博覧会にて、逆転止め歯形による落下防止装置(調速機、ガバナーマシン)を取り付けた蒸気エレベーターを発表した。エレベーターという名称もこのときオーチスによって命名された[5]。オーチスは、来場客の面前で、吊り上げたエレベーターの綱を切ってみせ、その安全性をアピールした。このエレベータはニューヨーク水晶宮に設置されていた[6]。
水力式や蒸気機関式は、冬季に水が凍結すると運行に支障が出た。1882年、最初の電動式エレベーターがニューイングランドの綿工場に設置されると[5]、その後1889年ごろより高速運転可能な装置が考案され、電気の供給安定とともにエレベーターの動力源として電動式が主流となった。
電動式エレベーターは制御機構の高度化と建物内の高速な垂直方向の流通アクセス性の向上により、超高層建築物の建設に追い風をもたらした。
1880年代以降はアメリカ合衆国のシカゴとニューヨークで高層ビルの建築競争が始まる。特に1920年代にはニューヨーク市マンハッタン地区ではクライスラー・ビルディングが高層ビルとして初めてエッフェル塔の高さを上回るほどとなり、世界一のビルの高さを競う新築超高層ビルの建設ラッシュが起き、この動きはのちに世界的に広がった。
なお、1890年11月10日に東京・浅草の展望台「凌雲閣」に日本初の電動式エレベータが設置されたことにちなみ、日本エレベータ協会は、11月10日を「エレベータの日」としている[10]。ただし、この国産エレベータは安全性に問題があるという理由で約半年後に当時の警視庁から運転が差し止められた[11]。
日本で現存最古のエレベーターは東華菜館(京都市)に1926年設置された米オーチス社製。これの見学を兼ねて来店する客もいる。蛇腹扉の開閉や昇降運転は手動式で、店員が行う。
人でなく物を運ぶ昇降機で保存されている最古のものは、偕楽園(茨城県水戸市)内にある水戸藩主別邸「好文亭」に1842年設置された。食事を入れた箱を、滑車に回したヒモを引いて1階と2階の間で上げ下げした[12]。
古い物では他に永平寺大庫院の1930年設置などが稼働している。
ここでは昇降路の設備とカゴの設備に分けて記述する。
昇降路はシャフトとも呼ばれ、エレベーターが上下するための何らかの構造物で覆われた縦に長い空間のことである。シャフトを構成する材料は鉄筋コンクリート構造や鉄骨構造が多い。 シャフト一体型と呼ばれる、シャフト部材と機器本体を一体で工場にて製作し現場に据付するタイプもある。シャフト一体型は小規模集合住宅に適しており、昇降行程が低く、小容量の後付用以外にはほとんど用いられない。 昇降路の最下階のさらに下部をピット、最上階のさらに上部をオーバーヘッドと呼ぶ。
ガイドレールとはエレベーターを導く軌道であり、シャフト内に設置される。材質は鋼でできており、形状は鉄道のレールとよく似ている。それを垂直方向につなげてエレベーターの軌道を構成していく。ガイドレールは、かごの走行を円滑にし、各階に設置されたドアやカウンターウエイトなどの構造物とのクリアランス(すき間)を確保すると同時に、万一かごが落下した際に非常止め装置をガイドレールに噛ませて緊急停止させる目的もある。ガイドレールとかご、カウンターウエイトが接触する部分にはガイドシューと呼ばれる潤滑具やガイドローラーなどを設けて摩擦や振動を低減させている。
カウンターウェイトとも呼ばれ、つるべ式エレベーターで用いられるおもりである。全体の形状は扁平で縦に長く、非常に重い鉄の塊である。つるべ式はトラクション式とも呼ばれ、ワイヤーロープの両端にかごとおもりをぶら下げてバランスを取り、ワイヤーロープ折り返し中間地点に設置された電動機(モーター)と、それに連結された滑車(シーブ)に掛かる摩擦力によってかごとウェイトを上昇下降させる方式である。この方式ではロープ両端の重量バランスが良いので、比較的小さい力でロープに吊るされた物体を上昇下降させることができる。かごとカウンターウェイトのバランスが均等にとれている状態では、人の手でエレベーターを動かすこともできるほどにモーターに掛かる負担は小さくなる。カウンターウェイトの総重量は無積載状態のかごの質量にかご積載容量の50 %を付加した重量になるように設計されている。
ワイヤーロープはトラクション式エレベーターなどで用いられる巻上索である。材質は炭素鋼が用いられ、建築基準法によって安全率を10以上確保することが義務付けられている。ロープの構造は、まずストランドと呼ばれる細い鋼線をより合わせたものがあり、さらにそのストランドを8本ほどより合わせてできている。柔軟性を保つために、ロープの中心部にはマニラアサやサイザルアサなどの硬質繊維芯が入っている。太さは直径10 mm・12 mm・16 mmなどがあり、かご積載量に応じて使用する本数が増えたり、より太いものが使われる。トラクション式ではロープの両端にかごとカウンターウェイトが吊るされていて、それらの連結部にはソケットと呼ばれる器具にバビットメタルを注入するという末端処理が施されていて、連結強度を確保している。
高層ビルのエレベーターでは使用するワイヤーの質量が多く、そのままの状態では最上下階近辺ではかご側とカウンターウェイト側の重量がワイヤーロープの自重によってアンバランスになり、巻上機のシーブから滑り落ちてしまう恐れがある。そのアンバランスを解消するために、かご底部とカウンターウェイト底部との間には、コンペンセーティングロープあるいはコンペンセーティンチェーン[要曖昧さ回避]と呼ばれる、重量バランス調整用のワイヤーロープやチェーンが渡されている。
映画等に登場する、エレベーターのワイヤーが切れて高速で落下するシーンには誤りが多い。エレベーターのかごを吊り下げるワイヤーの強度は定員の約10倍の重さに耐えられる強度を有することが義務づけられており、ワイヤーの使用本数も3本以上いるため、その全てが切断すること自体が極めてまれである。万一、切断してかごが落下に転じても、調速機ロープが同時に切断されない限りは、定格速度の1.4倍で非常止め装置が作動して急停止する。つまり、映画『マトリックス』のワンシーンのように爆破されたり、主ロープと調速機ロープが同時に破断されない限り、落下事故は起き得ない。
なお、2011年7月26日には東京メトロ有楽町線・副都心線平和台駅でエレベーターのワイヤー3本が全て切れて非常止め装置が作動するまで数m落下する事故があり、乗っていた50歳代の女性が尻や肘に2週間の打撲傷を負うという事故が発生している[13]。1945年7月28日、エンパイア・ステート・ビルディングに航空機が激突したことによってエレベーターのかごが非常止め装置も効かないままエレベーターシャフトの底まで300メートル以上落下する事故が起こったことがあるが、乗っていた従業員は奇跡的に生存していた。
以前は「非常止め装置が調速機ロープを切断されるなどして作動しなくても、エレベーターはエレベーターシャフト周壁との間隙が小さいことにより、かごにかかる空気抵抗が大きいため、ある程度の減速効果を有する」と言われていた[要出典]が、東芝エレベーターテスト塔での落下事故で、減速効果はほとんどないと証明された。このような効果を得るには、シャフト内の空気量が不変でなければならない。
非常止め装置はかご枠の下部にあって調速機の動作に応じて制動子がかごの降下を止める装置である[14]。
緩衝器は昇降路最下部にあってかごや釣り合いおもりが昇降路の底部にまで進行してしまった場合に衝撃を和らげる装置である[14]。サスペンションともいう。ばねや油圧ダンパー等が付いており、非常止め装置を使用しても減速しきれない場合の衝撃をやわらげる仕組みになっている。エレベーターの速度が分速60 m以下か油圧式エレベーターのものはばね緩衝器、分速60 m以上のものは油圧ダンパーを使用している。
人が乗るための箱状の構造物を、エレベーターではカゴ(籠)と呼ぶ。これに人または荷物を乗せ上下させる。
天井には照明が装備され明るさが確保されるほか、換気扇、扇風機が装備され通気性が確保されている。エアコンが付いているものもある。
ドアには各階の乗場側の乗場戸とかご側のかご戸がある。古いものでは手動式もあり、国によってはかご戸のないものも少なくない。 防犯のために窓が設置されていることがある。
縦開き式など特殊なエレベーターを除き、かご側のドアだけに駆動装置がある。停止階に到着したエレベーターは、かごドア側の解錠装置と乗場ドアのインターロックがかみ合い、乗場のドアはかごドアの力によりインターロックによる施錠が解放され、開閉する。
外観としては横方向に動くサイドスライドドアが主流となっている。サイドスライドドアにはサイドオープン式(片開き)とセンターオープン式(真中開き)がある。特大貨物用では上下方向に動くドアが採用されている場合があるが、このドアは乗降中に戸が頭部に衝突したり戸が下方から出てきて危険であるので、荷物用・自動車用以外には使用できない[15]。
操作盤はエレベーターの操作に使われる。一般的に階数ボタンと戸扱いボタンがあり、乗客は行先指定や扉の開閉を行う。操作盤の上部にはインジケーターがあることがほとんどである。
ほとんどの機種では非常連絡装置が取り付けられている。地震や火災・故障により閉じ込められた時などに使用し、メンテナンス会社や建物の管理人と連絡をとることができる。 メンテナンス会社と契約を結んでいない場合には、建物の基準階で警報音が鳴るだけである。
障害などで通常の操作盤を扱うことが難しい人のために、低い位置に操作盤が設置されていることもある。これらは一般的に車椅子操作盤と呼ばれ、扱われた際に扉の開放時間が長くなる・扉の開閉速度が遅くなるように設定されている。
かごがどの階にあるか、またかごが上下どちらに動いているかを表示する装置。 インジケーターは基本カゴ内と各階の乗り場に設置される。ただし、近年設置されたエレベーターの場合は、複数台のエレベーターを一括管理する群管理システムを採用し、全ての階での待ち時間が最短となるように最適な運用をするため、人が待っている階を通過する・その階の手前で折り返すなどのことがあり、そのことを利用者に知られないようにするため、乗り場のインジケーターを備えず、到着を予告するホールランタンのみを備える場合が多い。
インジケーターの表示方式は、次のように分類できる。
かごドアの端部には挟まれによる事故を防ぐため、セーフティシューと呼ばれる大きな棒状の安全スイッチが取り付けられている。物理的に押されることによって反応する。
近年のエレベーターでは、赤外線センサーなどを設置しているものがある。センサーが遮られることでドアへの接触の前に反転する。これにより台車や扉を破損する可能性が大幅に低下した。 多数のセンサーを異なる方向に設置してさらに検出精度を向上させたものは、マルチビームドアセンサーと呼ばれることが多い。
これらの安全装置が非搭載であるまたは故障しており、危険に人や物を挟み込んでしまうおそれのあるものは、俗にギロチンドアと呼ばれる。
近年のエレベーターではカゴ側のドアの内側にもセンサーが設置されている。このセンサーは戸開時に照査し、検知するとドアの開閉を一時停止または減速させ、「ドアから離れてください」というアナウンスをする。
一部のエレベーターは避難用の救出口をもっている。これは中から脱出するためではないので、外から施錠されていることが多い。 郡管理されているエレベーターで1つだけ故障した場合などに、隣のカゴを動かして救出にあたる際に使われる。
エレベータの防犯装置として、防犯カメラ、警報装置、各階強制停止装置、利用者・利用階検知システムなどがある[14]。
防犯のため、エレベーターのかご内の状況が外部から見えるよう、ドアや壁に窓(通称 : 防犯窓)を装着し、あるいはかご内に監視カメラが設置され、内部の映像を乗り場のところに設置したモニターに映し出しているエレベーターもある。この形式のエレベーターの場合、外部からかご内の様子が見えることで犯罪やいたずらを未然に防ぎ、安心してエレベーターを利用できるといった長所がある。
窓付きドアのエレベーターは、主にマンション・団地などの集合住宅、鉄道駅、一部の商業施設などで見かける。防犯カメラのついたものは、集合住宅や一部のオフィスビルで見受けられる。
また、深夜になると各階へ昇降する際、途中階全てに停止するエレベーターもある。たとえば1階から5階へ向かう際、2階・3階・4階で停止しドアを開ける手順を経過することになるので防犯の効果は高くなる。その反面、昇降に時間がかかり効率を悪化させるという欠点がある。
本項目では、バリアフリー構造について紹介する。
かごの奥側の側面には鏡が設置されていることがある。これはエレベーター利用者が車いすを使用している場合、前を向いたまま室内に入ることになるため、狭い室内では車いすに乗りながら転回することができないことを考え、後ろ向きのままエレベータから降りられるように考慮して設置されているものである[16]。
車椅子などで乗り込んだ際、降りるときも前進で降りられるように出入り口をかごの前後に配置した形式がある[17]。これを「ウォークスルー式」または貫通2方向型という。貫通2方向型の機種は、大規模病院や事業所などでストレッチャーや貨物搬送の都合から採用することがある。
建物の構造上、貫通2方向型が設置できない場合などのために、前面と側面の2方向にドアが配置された直角2方向型の機種もある[17]。駅舎やペデストリアンデッキのエレベーターに多い。乗客には降り口が判別し難い場合があるので、目的階に到着すると「後ろのドアが開きます」や「こちらのドアが開きます」などの音声によって降り口が案内される。
他には手摺を付けて車椅子で移動しやすくしている場合がある。
昭和40年代頃までは半導体技術が現在のように発展していなかったために、エレベーターの制御回路にはリレー式シーケンス制御が採用されていた。今では到底考えられないが、速度制御、ドア開閉制御、呼び出し制御、混雑回避制御などありとあらゆる制御回路が数百個から数千個にも及ぶ大量のリレー群とタイマーリレー、その他機械式接点によって構成されていた。リレー式回路は主に手作業で制御回路を構築するので、回路設計、回路変更に多大な費用と労力が掛かるものが多かった。さらに接点の接触不良や焼き付きなどの動作不良も多く、メンテナンスマンを大いに悩ませたが、交換パーツの調達性は今日でも良好である。
昭和50年代に入ると半導体産業やコンピューターテクノロジーが隆盛し、エレベーターの制御回路にもマイコン方式が取り入れられた。これによって機器設置、回路設計の負担が減り、高品質で多彩な運転制御が可能になった。特にモーター制御では加減速制御の品質が一段と飛躍した。巻上げ電動機には1980年代前半まで、高速のものには直流電動機が、低速のものには誘導電動機が用いられ、速度制御方式はそれぞれワードレオナード方式と極数切替法、次いでパワーエレクトロニクスの発展によりサイリスタなどによる電動機入力電圧制御に移り変わった。1983年に交流電力のVVVFインバータ制御がエレベータ向けにも実用化された。それ以降、高速低速ともにインバータによる誘導電動機駆動を経て、現在では永久磁石同期電動機駆動の巻上機が主流となった。
一方、油圧式エレベーターでは流量制御バルブによる制御が用いられ、油温や積載荷重により走行性能の変動を受けやすかったが、1980年代後半以降はマイコン制御化やバルブの改良により解消された。また、1990年代に入ると規格型エレベーターを中心にVVVFインバータ制御方式が広く普及し、乗り心地向上や省エネ、走行時間短縮を実現している。
これらの技術革新によって、現在では各階への停止位置をミリ単位で微調整することが可能とされている。
なお、半導体制御化が進んでいるが、重要な箇所にはリレーが残っている。リレーは信号側と動作側が電気的に絶縁されているので大電流に強いこと、電磁波ノイズに強いこと、昔に比べ動作の信頼性が高くなっていることもあいまって、現在でも主回路、ドア制御回路などの重要な箇所にリレーを部分的に使用しているメーカーは多い。
1つの建物で複数のエレベーターが並んでいる場合、それらを同じように各階に止めていくのは効率が悪い。特に、デパートなど、特定のフロアなどに客が集中する場合には、その階へ優先的に輸送することが望ましい。そのため、エレベーターの制御の単独化や、特定階の不停止制御(フロアカット[20]もしくはサービスカット[21])を行い、一部の階だけに停止させる急行運転(あるいは直通運転)を行なうこともしばしば見受けられる。また、事務所ビルでは、最終退館者が防犯機器を操作した時点でその階を通過し、最初の出勤者が入館手続きを取ると停止するというシステムを採用するケースもある。屋上階には停止しないというシステムも、防犯上の事情から実行されている。
エレベーターに乗ると、身体が床に押し付けられたり上に引っ張られたりするような感覚がある。これはエレベーターの速度の変化によって生ずる加速度が搭乗者に働くからである。速さが激しく変わるようなエレベーターは搭乗者にとって不快である。また、かごをガイドするガイドレールの取り付け方によっては横方向の揺れが発生し、乗り心地は大きく変化する。超高層ビルで運用されるエレベーター(最下階から最上階まで直通するような速度の速いエレベーター)ではレールの歪みやレール取り付け方法、加速度のコントロールに細心の注意が払われている。横浜ランドマークタワーのエレベーターは床面に立てた硬貨が倒れないほどに乗り心地がよいといわれる。これは、加速制御の巧みさだけでなく、ガイドレールの配置や歪みにまで丹念に作りこまれているからである。
一部の鉄道駅などには「構内外共用型」というエレベーターが存在する。これは、1台のエレベーターで「駅外と改札外コンコース」「改札内とプラットホーム」の移動のみを可能とするもので、近畿日本鉄道吉野線福神駅で日本初の設置が成された。乗った場所により降りられる場所が決められており、「駅外とホームや改札内」や「改札外とホーム」などの直接移動はできない。通常、「改札内」と「改札外」は同一平面となるため、かごの扉は2つある場合が多い。本来2台以上が必要なものが1台ですむため、設置やメンテナンスのコストが大幅に節減できる反面、利用者はかご呼び出しから乗れるまでの時間がかかる場合がある。そのため、エレベーターの利用が少ない、小規模な駅に設置される場合が多い。交通バリアフリー法の施行を機に敷地の問題やエレベーターシャフトの設置スペースに制約のある駅の改修工事において採用されるケースも出てきた。
鍵や暗証番号を入力しないと呼出しボタンや行き先ボタンが機能しないエレベーター。認知症の入居者が不用意に外出してしまうのを防ぐため、特別養護階のある老人ホームに設置されているほか、建物所有者の自宅階や店舗・病院の従業員などといった、特定の人物以外の利用を制限したい場合にも用いられる。逆のパターンとして、かご内の操作盤でカードキーや特定のコマンドを入力することによって着床を行う階が設定できるエレベーターもあり、特定階への部外者の立入を制限したい場合に設定される。企業の本社ビルで特定階が丸ごと役員室になっている場合が該当する。類例としてビジネスホテルにて上下ともフロント階に必ず停止させ扉越しに乗客を確認するなど、外来者も使用するエレベーターでは停止階制御の機能が持たされることがある。
監視カメラで常に人の動きを感知し、激しい動きがあると注意を促すアナウンスが流れるもの。エレベーター内で争い等が起きたときや、防犯に有効である。[22]
エレベーターの速度は一般的に45m/min~105m/min[23]。上り世界最速のエレベーターは中国・広州市の「広州周大福金融中心」にある75.6km/h(1,260m/min)の日立のエレベーターで[24]、下り世界最速のエレベーターは横浜ランドマークタワーにある45km/h(750m/min)の三菱電機のエレベーターである[25]。
高速度を出す技術よりも、高速度の状態から安全に止める技術の方が難しいため、高速エレベーターでは下りのスピードを上りよりも抑えることが多い[26]。
日本では建築基準法の規定により、一人を65kgと見積もって定員を計算する[27][28]。かごの大きさは小型で1m四方ほど、大型では2m以上のものもある。日本でトップクラスの乗用大型エレベーターは、1970年日本万国博覧会(大阪万博)の日立グループ館に設置された、130人・8,350kgの内径6mのカゴが二台連結された、日立製の二階建て油圧エレベーター(現存しない)である[29]。
エレベーターを開発する際には、テストする際に実際のビルと同じ高さの建設物が必要となる。そのため、各社ではテスト塔とよばれる高い建設物を作り、製品の安全性、機能性などをテストしている。
オフィスビル等の高層建築物には、エレベーターが必須である。日本などでは高齢化などのためバリアフリーの重要性も高い。また、近年経済発展のめざましい中華人民共和国は、ビルなどの建設ラッシュであるため、エレベーターを製造するメーカーの競争は激しい。各メーカーでは差別化を図る意味で、さまざまな機能などが付けられたエレベーターが製造され存在する。また建築物以外にも、船舶艦艇(揚弾機含む)・陸上車両内外(リフター付はしご自動車・パワーゲート・バス内他)・大形航空機内等にも設置されたエレベーターが存在する。
基本的に火災時の避難には使用しないことと表示されている。しかし、マンションの高層化に伴い東京消防庁は停電対策の予備電源や防災センターとの通信設備などの厳格な要件を課した上で条件を満たす場合には火災時の避難にエレベーターを使うよう指導することとなった。
アメリカ西海岸の地域は地震多発地域でありカリフォルニア州法はエレベーターに関する耐震規定が設けられている[14]。
エレベーター内は構造上密室になりがちであるため、痴漢などの犯罪が発生する可能性が少なくない。そのため、エレベーターには管理会社へ通報できる装置が備えられている。
乗客の自主的な防犯対策として、以下のものがある[30]。
エレベーターは可動や経年変化によって消耗する部品があり、定期的なメンテナンスを必要とする。メンテナンスを行わないエレベーターは重大な事故を招きかねない。
エレベーターの寿命は機器全体として考えた場合は長く、25年前後使用されることが多い。法定償却耐用年数は17年と定められている。ただし、電子部品やワイヤー、軸受などはほぼ10年など、個々の部品の寿命は一般的な物理的寿命と大差ない。寿命を迎えた場合には、一式取り替える撤去新設工事だけでなく、リニューアル・延命工事も広く施工され、巻上機やかご・レールはそのまま使用するが、電動機や制御機器を最新型のものに取り替えて最新型と同等の性能を発揮できるようにする。特に1980年代以前に製造されたエレベーターは遅くとも2012年までに部品供給の停止が予告されている[31][32][33]ので、リニューアルは必須となる。
日本においては建築物に設置されるものは建築基準法の適用を受ける[14]。また、労働基準法指定事業所に設置されるものには労働安全衛生法の適用を受ける[14]。
日本で昇降機(エレベーター、エスカレーター、小荷物専用昇降機等)を建築物に設置する場合は、建築基準法の規定に基づく確認・完了検査を受けなければならない。しかし、建築基準法で定める昇降機であるにもかかわらず、建築基準法の規定に基づく確認・完了検査を受けずに設置されている昇降機を違法設置エレベーターという。
建築基準法や各種法令では、5階建以下の建築物(集合住宅、雑居ビルなど)ではエレベーターの設置が義務づけられていない[注釈 2]が、6階建以上の建築物を建てる時は、(屋上を除く)全ての階に停止するエレベーターの設置が必須となり、設置していない建物には建築許可が出ないが、昭和50年代以前に建築された古い集合住宅だと、一部の階にしか停止しない(全ての階に停止しない)「スキップフロア型」を採用しているのもある。
特に工場や作業場等に多数設置されている、労働安全衛生法で規定される荷物用エレベーターや簡易リフトは、労働安全衛生法と共に一般のエレベーターと同様に建築基準法の規定も適用される。特に労働安全衛生法で規定されている簡易リフトは、かごの床面積により建築基準法で小荷物専用昇降機に規定されるものを除き、その多くは建築基準法に規定されるエレベーターの基準が適用されるが、その基準を満たしていないものが数多く設置されている。
さらに、昇降路の壁が設定されていないなど建築基準法はもちろん、労働安全衛生法の簡易リフトの規定すら満たしていない非常に危険な違法設置エレベーターも数多く設置されており、毎年全国の工場等で多数の死傷事故が発生している。こうしたことから、全国の特定行政庁及び労働基準監督署は、違法設置エレベーターに関する周知活動等を行っている。
斜行エレベーター(いす式階段昇降機などを含む)・水平エレベーターと、鉄道(ケーブルカー・産業用モノレール含む)・鉄道型遊戯施設の基本構造上の区別は曖昧であり、管轄法規が峻別している。
エレベーターとは、建築基準法第34条で規定される「昇降機」の一種別である。なお、この「昇降機」は建築基準法施行令第129条の3の規定により、大きく「エレベーター」、「エスカレーター」、「小荷物専用昇降機」の3種類に分けられている。
建築基準法で規定される「エレベーター」には以下の用途種別が定められている。
建築基準法に規定されるエレベーターは、前記に規定されるもの以外に以下のものが規定されている。
建築基準法(第34条2項)により、地上からの高さが31 m以上あるか、または45 mあるかまたは、地上11階以上(一部のマンションでは16階以上)の建築物には、一般用のエレベーターのほかに、非常用エレベーターの設置が義務付けられる。これは災害発生時に高層建築では消防隊が階段を上がって救出に向かうことが困難であるためであり、専用運転に切り替えられる装備をもつ。また地上から10階以下では設置は義務付けされないが設置されているケースもある。
非常用エレベーターは、火災等で商用電源が遮断されても運転できるよう非常電源(ディーゼル発電機など)から電気が受けられ、電線も普通の火災で焼けないよう耐火電線を用いて配線する。
かつては機械室がないタイプは一切認められていなかった[注釈 4]が、2015年の国土交通省告示の改正[注釈 5]により、駆動装置・制御盤等を、最上階フロア床面より上方に設置した機械室無しタイプは非常用エレベーターとして適用することが認められた[34]。この告示はその後2017年に再び改正され、IPX2以上の防水措置を講じることで、最上階の床面よりも下方に制御盤や駆動装置を設置することができるようになった[35]。
またかつては他の一般用エレベーターよりも速度が遅い仕様が多かったので(現在は最上階まで1分以内に到達できることが条件で、60 m/minが下限)、乗用として使用されることはほとんどなく、通常時は荷物輸送やビルメンテナンス要員・警備員の移動に用いられてきた。そのため用途種別はほとんどの場合「人荷用」となっており、最近の一部を除き一般客の目に触れないように設置されることが多い。一部の建物では、一般客が利用するエレベーターと非常用エレベーターを兼用している建物もある。
なお、非常用エレベーターは設置されている建物の全ての階に停止でき、かつ全階のエレベーターホールにはかご位置を知らせるインジケーターを設置しなければならず、エレベーターホールも防火戸等により煙や炎を完全に遮断することができる構造が必要になる。乗場には非常用エレベーターを示す、赤文字で「非常用エレベータ」、その下に最大定員と積載荷重を記載したプレートを掲示しなければならない。定員は最低で17名(積載荷重1,150 kg)と定められている。消防隊専用の装備として、主に1階か避難階に設置され、押すと他のかご内および、乗場の呼びを全て解除し呼び戻しボタンのある階へ直行する「かご呼び戻しボタン」、建物管理者や警備員から鍵を借りて操作すると消防隊専用に切り替わる「一次消防・二次消防切り替えスイッチ」がある。
一次消防運転では乗場呼びが無効になり、一種の専用運転となる。二次消防運転では乗場の戸閉検出装置が無効となり、かごまたは乗場の扉が閉まらない状態でも走行可能になるが、速度は最高でも90 m/minに制限される。
2022年現在、日本国内での総据付台数ベースでのシェアは以下のとおり。
以上の5社でシェア約9割を占め、以降をシンドラーエレベータ、中央エレベータ工業等がその他を占める。
以前、フジテックは2007年の時点では大手5社の中で最下位であったが、近年エクシオール(同社製現行主力製品。エアコンを標準で搭載している。)を大規模に展開するなど日本全国でシェアを急拡大し、国内4位に躍り出た。
小荷物専用昇降機は上記の5社も生産しているが、これに限ればクマリフトがシェア1位となっている。なお、三菱電機の小荷物専用昇降機は子会社の菱電エレベータ施設(自社ではRYODENブランドの「リョーデンリフト」として販売。日本オーチス・エレベータにも供給)のOEMである。フジテックは精電社のOEMで小荷物専用昇降機のみの設置は認めていない(同社製エレベーター・エスカレーターと同時設置でなければ販売しない)。
メーカーの選定に際しては、建物所有者の資本系列や融資元金融機関の系列が絡むことが多い。例えば、丸の内ビルディングや横浜ランドマークタワーなど三菱地所が所有する建物では、必然的に三菱製が採用されることになる(ただし、横浜ランドマークタワーのプラザ棟のように、メーカー名が伏せられているがパネル形状から明らかに日立製とわかるなど例外がある)他、三井不動産系のビル、ららぽーと等ではフジテック製エレベーターが多く採用されている。[38][39][40]また、ラゾーナ川崎のように、東芝の土地に出来た建物も東芝エレベータが使われている。さらに特殊な事例として、茨城県内では日立製作所が創業した日立市があることから比較的県内(茨城県庁、日立市庁舎、コートホテル水戸、クラウンホテル勝田2号店等)では日立製のエレベーターが採用されることが多くなっている。
逆に大手スーパーマーケットチェーン、一般工場、財閥系を除く不動産業者による賃貸マンションや分譲マンションなどは建物によってさまざまであり、これは設計事務所が設備設計を行う際に、参考としてメーカーが設計図面上で選定されていることが多いものの、エレベーターの確認申請は建築設計図面とは別に提出され、メーカーを変更しても特に問題はないためであり、施工段階で、元請業者による見積もりが取られた際に、元請業者によって安価なメーカーが選ばれる事が多いためである。一部マンションなどでは、保守点検の効率化・コスト削減などの観点からデベロッパーの管理会社によってメーカーが指定されることもしばしばだ。
メーカーの業種は大抵「機械」だが、三菱電機ビルソリューションズと日立ビルシステムだけは「建設業」となっている。この2社はそもそも建築物管理業であることに因む。
メンテナンスはメーカー自身、もしくは系列のメンテナンス会社が行うケースがほとんどである。一方、メーカー系列に属さない独立系メンテナンス会社もある。比較的割高なメーカー系のメンテナンスに対して、近年は安価な料金を掲げる独立系メンテナンス会社への切り替えも見られる。1980年代に独立系メンテナンス会社に対するメーカーの部品売り渋りが問題となり、独立系メンテナンス会社がメーカーを相手取って裁判を起こし、10年がかりで勝訴した。しかし、メーカーと独立系メンテナンス会社との関係が険悪なのは現在も変わらず、2009年に国土交通省が行った実態調査でこれが浮き彫りになった[41]。独立系メンテナンス会社は業界団体の日本エレベーター協会からも事実上排除されており、加盟している会社はほとんどない。東芝エレベータは独立系メンテナンス会社に対する部品供給について価格・納期などで厳しい条件になると公言していた[42](現在は独立系に言及した記述は削除されている)。また、商品の性質上個人顧客がメインの三菱日立ホームエレベーターやパナソニック ホームエレベーターでは、独立系メンテナンス会社にメンテナンスを依頼しないように案内している[43][44]。
また、フジテックは基本的に自社メンテナンスを推奨しており、独立系メンテナンスになる場合には新設設置は基本的に行わない。ただし、既存のフジテック製エレベーターを独立系メンテナンスに変更することは可能である。
その一方で、後述の通り東芝エレベータが独立系のエス・イー・シーエレベーターと業務提携するなど、従来の保守で収益をあげるビジネスモデルに陰りも出てきており、メーカーと独立系の関係にも変化が見られるようになった。
北米や欧州の国々では日本とは異なり法令で直接構造基準等を設けているわけではない。
ヨーロッパではEU圏内の市場に出回る製品等の均一な安全性を確保するため製品ごとに指令が出されており、昇降機にもlift Directiveという指令があり、これに基づいて欧州統一規格ENが定められている。
アメリカではASMEA17.1、カナダでもB44という基準が指定されているが、規格は各州の州法で定められており、どの年度版を基準にしているかは各州により異なる。
韓国では、昇降機安全管理法という法律により、エレベーターの製造(輸入)、設置、維持管理について定められている。行政安全部傘下の韓国昇降機安全公団(KoELSA)がその任務にあたる。