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ケセン語 | |
---|---|
keseng̃ó/ けせんご | |
話される国 | 日本 |
地域 | 岩手県: 大船渡市、 陸前高田市、 住田町など. |
話者数 | ? |
言語系統 | |
表記体系 |
ケセン式ローマ字 仮名(ケセン仮名・平仮名・片仮名) 漢字(日本漢字) |
言語コード | |
ISO 639-3 | — |
Glottolog |
kese1237 [1] |
ケセン語(ケセンご、気仙語、氣仙語、ケセン式ローマ字表記: keseng̃ó)とは医師の山浦玄嗣が日本の気仙地方(岩手県陸前高田市・大船渡市・住田町および宮城県気仙沼市など)等の地域のことば(方言)に対し、これを一つの言語と見なして与えた名称である。
山浦の考案した「ケセン式ローマ字」と称するラテン文字による正書法を持ち、山浦による文法書、辞書、文典(読本)・音源などが多数編纂・作成されている。
山浦が最初に「ケセン語」を広く世に問うたのは1986年、文法書『ケセン語入門』によってである。本書は同年、日本地名学会「風土研究賞」を受賞した。
文典としてはまず1988年に『ケセンの詩(うだ)』が刊行され(同年の岩手県芸術選賞を受賞)、その後、2002年から2004年にかけて、新約聖書の四つの福音書がギリシア語の原典から翻訳された。この福音書には、著者が朗読した音源CDが付属している。
辞書は、2000年に『ケセン語大辞典』が刊行された。
上記の翻訳聖書は、正文をケセン式ローマ字によってつづり、副文を一般読者にも読みやすいように工夫した漢字仮名交じり文で書いてある。従来の直訳体の日本語訳の聖書では理解が困難であった多くの個所が活き活きとした生活の言葉で語られている。聖書の理解に役立ったとして、2004年、著者とその仲間の気仙衆28名がバチカンに招かれ、教皇ヨハネ・パウロ2世に「ケセン語訳新約聖書・四福音書」を直接献呈して祝福を受けた[2]。
上記4福音書のオンデマンド・ペーパーバック版
ケセンという地名の語源については諸説があり、詳細は気仙郡の項を参照。山浦は、漢字の「気仙」という文字の選択はヤマト王権によって定められたものであるとして、カタカナ表記で「ケセン語」としている。
アクセント形式による分類では、東京式アクセントの第二種に属し、しかもそれからかなり離れた特殊アクセントとして分類されている。シとス、チとツ、ジとズとヂとヅを区別せず、一音節の中に二つの母音成分を持つ二重母音を有し、また対応する共通語の語中のカ行とタ行の音が濁音化するなどの音韻上の特徴を持つ。したがってガ行の濁音と鼻濁音とは明確に対立する。ケセン語の「語(ゴ)」も現地音では鼻濁音である[2]。
山浦によって考案されたラテン文字による正書法(ケセン式ローマ字)を有し、ケセン語の学術研究においてはこちらが用いられる。一方、これとは別に片仮名や平仮名に合字を加えた表記法(ケセン仮名)も存在し、山浦はこれを用いた漢字仮名交じり文[1] (PDF) [リンク切れ]によってケセン語版新約聖書の副文や演劇用の脚本を執筆している。
以下の表記法は、特記がない限り山浦玄嗣『ケセン語の世界』(2007年、明治書院)での記述によるものである。
ケセン式ローマ字は訓令式ローマ字をもとに26の字母と3つのアクセント記号、マクロン「¯」およびアポストロフィー「'」を用いて表記する。
大文字 | 小文字 | 国際音声記号 | 備考 |
---|---|---|---|
A | a | [ɑ] | |
B | b | [b] | |
D | d | [d] | a、e、oの前で |
[d͡z] | ıの前で | ||
E | e | [e] | |
[ɨ] | 後述の音便によってアポストロフィーの後に続く場合 | ||
G | g | [g] | |
G̃[† 1] | g̃ | [ŋ] | |
H | h | [h] | a、e、oの前で |
[ç] | i、yの前で | ||
[ɸ] | uの前で | ||
İ | i | [ɨ] | |
I | ı | d、s、t、zに続く時にのみ用いる | |
Ï | ï | 後述の二重母音にのみ用いる | |
K | k | [k] | |
M | m | [m] | |
N | n | [n] | 母音字あるいはyの前で |
[ɴ] | y以外の子音字あるいはアポストロフィーの前で | ||
O | o | [o] | |
P | p | [p] | |
R | r | [r] | |
R̈[† 2] | r̈ | [s] | |
S | s | [s] | |
[t͡s] | 後述の音便によってアポストロフィーの後に続く場合 | ||
T | t | [t] | a、e、oの前で |
[t͡s] | ıの前で | ||
U | u | [ʉ] | |
V | v | [ɸ] | |
W | w | [w] | wa、waiの綴りで |
(無音) | 上記以外の綴り、あるいは時にawaの綴りで | ||
Ẅ | ẅ | [ɸ] | |
Y | y | [j] | |
Ÿ | ÿ | [s] | |
Z | z | [z] | a、e、oの前で |
[d͡z] | ıの前で | ||
母音は長短の区別があり、長母音はマクロン「¯」を付加して表記する。
なお、各文字の発音については、以下のような発音の例外が存在する。
アクセント記号は、短母音の場合は高音で発音する部分に高音記号としてアキュート・アクセント「´」を付す。
長母音・二重母音および[ɴ]と発音する子音を伴う短母音の場合は、上がり調子のアクセントとなる場合は上昇記号としてハーチェク「ˇ」を、下がり調子のアクセントとなる場合は下降記号としてサーカムフレックス「ˆ」をそれぞれ付す。なお、二重母音にハーチェクおよびサーカムフレックスを付す場合は原則的に後ろの母音に付すが、例外的に二重母音aïのみ前の母音aに付す。
ケセン語のアクセントは外輪東京式アクセントと無アクセントの間の曖昧アクセントである[3]。
単語単位で見た場合には、ピッチの上がり目が全く存在しない平板式アクセントと、アクセント核となる1拍のみ高く発音する起伏式アクセントの2種類に分類される。
また、文節単位で見た場合には、アクセントの位置により以下の3種類のアクセントの型に分けられる。
アクセント型 | 用言の場合のアクセント位置 | 体言・副言の場合のアクセント位置 |
---|---|---|
(1)型 | 語幹 | 体言・副言自体 |
(2)型 | 活用語尾 | 後続する辞の1拍目 |
(3)型 | 後続する辞、あるいは文節全体で平板式 | 後続する辞の2拍目(辞が1拍のみの場合は文節全体で平板式) |
ただし、これらの分類に当てはまらない例外的な型の詞辞も存在する他、辞によっては上記の原則とは異なる位置にアクセント核が移動する場合もある。
山浦は、ケセン語において以下の4通りの子音の発音変化を音便として定義しており、音便化が生じた子音の直後に音便記号としてアポストロフィー「'」を表記する。
無声子音 + 母音i、ı、u + 子音 + 母音a、e、o
という音声の並びが存在し、母音i、ı、uの直後の子音がb、d、g、r、w、y、zのいずれかである場合、母音i、ı、uは無声化する事がある。この時、これらの母音の直後に続く子音は同時に以下の表の通りに対応する無声子音に置き換わる。
有声子音 | b | d | z | g | r | y | w |
---|---|---|---|---|---|---|---|
無声子音 | p | t | k | r̈ | ÿ | ẅ |
なお、このように無声化が起こったとしても語義に影響を与える事はない。
平仮名、片仮名ともにケセン語独自の発音を表現するため、3つの合字や半濁点を用いて拡張された表記法が考案されている[4]。
また、二重母音や長母音は後ろの母音成分の発音を片仮名の捨て仮名で表記する事で表現する。ケセン語ローマ字ではaiと記される[ɛə]は、ケセン語仮名では「えァ」「エァ」のように表記される。
山浦によるケセン語文法は、時枝文法を基に発展させたものである。
括弧内の品詞は、対応する学校文法での品詞分類の目安である。
単語 | 詞 | 体言 | 実体詞(名詞) | ||
動体詞(「する」を除くサ変動詞のうち、語尾「する」を除いた部分) | 動詞 | 属性詞 | |||
静体詞(形容動詞の語幹) | 静詞 | ||||
用言 | 動用詞(サ変動詞を除くすべての動詞およびサ変動詞「する」) | 動詞 | |||
静用詞(形容詞) | 静詞 | ||||
転用詞(連体詞) | |||||
副言 | 程副詞(程度の副詞) | 副詞 | |||
態副詞(呼応の副詞および時間・頻度を表す状態の副詞) | |||||
擬副詞(擬態語および擬音語) | |||||
辞 | 詞間辞 | 格辞(格助詞) | 関係辞 | ||
結辞(接続助詞) | |||||
添辞(副助詞) | 情意辞 | ||||
陳述辞 | 述辞(助動詞) | 関係辞 | |||
末辞(終助詞) | 情意辞 | ||||
副辞(陳述の副詞) | |||||
文間辞 | 続辞 | ||||
呼辞(呼び掛け・応答・挨拶・掛け声の感動詞) | |||||
情辞(感動の感動詞) |
動用詞の活用は、活用語尾の変化に応じて五段動詞(グループ1動詞)に相当する第一種活用およびそれ以外に相当する第二種活用の二種類に分けられる。以下、語幹をSで、このうちいずれかの母音がアクセントを持つものをŚで表す事とする。
第一種活用 | 第二種活用 | 備考 | |||||||||||||
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
①型 | ②型 | ③型 | ①型 | ②型 | ③型 | 不規則動詞 kurú | |||||||||
規則動詞 | 不規則動詞 sıru | ||||||||||||||
未然形 | Ś-a | S-á | S-a | Ś-era | Ś-ira | S-erá | S-irá | S-era | S-ira | sır̈a | kurá (時に)kirá |
仮定の結辞 ba などの前で | |||
Ś-er | Ś-ir | S-ér | S-ír | S-er | S-ir | ser | kor | 否定の結辞 zı などの前で | |||||||
連用形 | Ś-i | Ś-ı | S-í | S-i | S-ı | Ś-er | Ś-ir | S-ér | S-ír | S-er | S-ir | sır | kir | ||
終止形 | Ś-u | Ś-ı | S-ú | S-í | S-u | S-ı | Ś-eru | Ś-iru | S-er | S-irú | S-eru | S-iru | sıru | kurú | |
連体形 | Ś-u | Ś-ı | S-ú | S-í | S-u | S-ı | Ś-eru | Ś-iru | S-er | S-irú | S-eru | S-iru | sıru | kurú | |
已然形 | Ś-e | S-é | S-e | Ś-ere | Ś-ire | S-eré | S-iré | S-ere | S-ire | sır̈e | kuré (時に)kiré |
||||
命令形 | Ś-e | S-é | S-e | Ś-ero | Ś-iro | S-eró | S-iró | S-ero | S-iro | sır̈o | kǒ |
一型動詞は、連用形の直後に結辞 te あるいは de が続く場合、語幹末の子音に応じて以下のような音便化を生じる。音調型②型の場合は、更にアクセントが結辞に(語幹がsで終わる場合のみ語幹の最終音節に)移動する。
語末子音 | 接続する結辞 | 生じる音便 | 例 |
---|---|---|---|
d r w | te | 促音便 | kadí(勝つ) → kad' té(勝って) |
b m n | de | 發音便 | yomú(読む) → yom' dé(読んで) |
g g̃ | de | 子音脱落音便 | kagú(書く) → kag'i dé(書いて) |
s | te | 活用語尾 -ı の無声化 | dasí(出す) → dásı te(出して) |
静用詞の活用は以下の通りである。
①型 | ②型 | ③型 | 備考 | |
---|---|---|---|---|
連用形 | Ś-gu | Ś-gu | S-gu | |
Ś-ku | Ś-ku | S-ku | 語末のuが無声化した場合 | |
Ś-g' | Ś-g' | S-g' | 動用詞 aru などの前で | |
終止形 連体形 |
Ś-g'i | S-g'í | S-g'i |
否定疑問文に対する「はい・いいえ」の応答形式が標準語とは反対になる(この現象は九州・南西諸島・沖縄にも見られる) [2]。また、接続語の「~に」に当たる言葉は「~さ」である。